
「生理でも泳げる選択肢をつくりたい」 水泳コーチが挑んだ『水泳用サニタリーショーツ』開発ストーリー
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こんにちは。
『水泳用サニタリーショーツ』を開発した、水泳コーチの乾加奈子です。
このブログでは、水泳をもっと楽しめる社会を目指して、「水泳×生理」というテーマを中心に専門家である私が発信していきます。
最初の記事では、私がなぜこの商品をつくろうと思ったのか。そして「Undery(アンダリー)」というブランドを立ち上げるまでの道のりをお話ししたいと思います。
■「水泳大国ニッポン」の裏にある、見えない課題
日本は世界的にも水泳が盛んな国です。
公立学校にはほとんどプールがあり、夏になれば多くの子どもたちが授業で泳ぎます。
公共プールも整備され、誰もが気軽に水泳に触れられる──まさに「水泳大国」です。
しかし、その一方で「生理中の水泳」に対する配慮は、まだまだ十分とは言えません。
「生理だから今日は泳げない」
「休んだら揶揄われた」
「血が垂れて恥ずかしかった」
そんな声を、コーチとして何度も耳にしてきました。
水泳の現場には、「生理になったら仕方ない」「我慢するしかない」という空気が、今も残っています。
でも本当にそれでいいのでしょうか?生理は誰にでも起こる自然なこと。
それなのに、水泳が好きな子が「生理だから休むしかない」なんて、あまりにももったいないと思ったのです。
■コーチとして見てきた「現場の声」
私は1歳半ごろから水泳を始め、幼稚園のうちに四泳法をマスターしました。
小学校に入ると選手コースに進みましたが、全国大会の基準まであと少し届かず、悔しさを残したまま選手を引退。
その後、高校を卒業してからコーチとして再びプールに戻りました。
最初はベビースイミングや一般コースの子どもたちを指導していましたが、やがて自ら志願して「選手コースのコーチ」に。
当時の自分を育ててくれたコーチと同じ立場に立ち、指導する側としての挑戦が始まりました。
「選手を速くする」のはもちろんですが、それ以上に「水泳を一生のスポーツとして好きになってほしい」──そんな思いで日々指導していました。
すると次第に、教え子たちが水泳だけでなく、
「友人関係の悩み」や「生理のこと」まで相談してくれるようになりました。
その中で最も多かったのが、「生理の時はどうしたらいいですか?」という質問でした。選手コースは、まだまだ男性コーチが多く、数少ない女性コーチである私のところにこういった相談が集まる傾向があったのだと思います。
「休む」「タンポンを使う」「諦める」。
その三択しかない現状に、私は強いもどかしさを感じました。
誰かが解決しなければ、ずっとこのまま。
そう思ったとき、「じゃあ私がつくればいいんだ」と決意したのです。
■“ないならつくる”──試作と挑戦のはじまり
最初に頭に浮かんだのは、「履くだけで経血をブロックできるショーツがあればいいのに」というアイデア。
すでに世の中には多くのフェムテック商品がありますが、驚いたことに「水泳専用」のサニタリーショーツは一つもありませんでした。
そこからは、まさに手探りの毎日。
自分で工場を探し、素材を選び、何度も試作を繰り返しました。
偶然にも、強力なパートナーと出会い、大きなご協力を得ました。
吸水ショーツは「吸う」構造のため、水中では水を吸って膨らんでしまいます。
だからこそ、「吸水」ではなく「防水」という発想にたどり着きました。
水圧で水中では経血が出にくいという性質を活かし、プールから上がる瞬間、そして更衣室までの時間にだけ機能するよう設計。
オリンピック会場でもある東京アクアティクスセンターで試験を行い、
激しい泳ぎでも問題ないことを確認できたとき──
「これはいける」と確信しました。
■Undery(アンダリー)という名前に込めた想い
ブランド名「Undery(アンダリー)」には、
「Under Water(潜水練習)」という水泳用語からの意味を込めました。
「この話題を、恥ずかしいことではなく、練習の話をするように自然に話せるように」そんな願いをこめた名前です。
デザインも、あえてフェミニンではなく、男性コーチや父親など、、男性でも手に取りやすいものにしました。
生理のことを、女性だけで抱え込むのではなく、男性コーチや父親も含めて「チームで支え合う」水泳の環境をつくりたい。
それがUnderyの目指す姿です。
■「機能」だけじゃない。「安心感」を届けたい
『水泳用サニタリーショーツ』は、体の外側で経血を一時的に受け止める構造。
特別な洗剤も不要で、シャワーで流すだけ。
小学生でも1人で扱えるよう、使いやすさにこだわりました。
もちろん、タンポンや月経カップが合う方もいます。
でも、「体に入れるのが怖い」「違和感がある」と感じる人もたくさんいます。
だからこそ、「履くだけで安心できる」という選択肢を増やしたかった。
機能面の優秀さはもちろんですが、何よりも大切なのは「これを履いているから大丈夫」という安心感です。
水に入ることを我慢していた子が、また笑顔でプールに飛び込める。
その瞬間を見るたびに、この商品を作ってよかったと心から思います。
■「今できること」から始めるフェムケア
近年「フェムテック」や「フェムケア」という言葉が注目されています。
しかし、実際には「本当に必要な場所」──
たとえば学校やスイミングスクールなどの現場には、まだ十分に届いていません。
「生理は恥ずかしくない」という認識を変えることは大切です。
でも、考え方が変わるには時間がかかります。
だから私は、まず“今困っている子を助ける”ことを優先しました。
社会が追いつくのを待っている間にも、今日、泣いている子がいるかもしれない。
だからこそ、「今できることをやる」
それが、Underyの原点です。
■さいごに──水泳を、もっと自由に
水泳が好きなのに、生理が理由で水に入れない。
そんな子どもたちを一人でも減らしたい。
『水泳用サニタリーショーツ』は、
そんな想いから生まれた「現場発」のプロダクトです。
水泳を通して、体を動かす楽しさ、自信、仲間とのつながりを感じてほしい。
そして、生理だからといって何かを諦める必要はない──
そのメッセージを、このショーツとともに届けていきます。
これからこのブログでは、
・生理中でも安心して泳ぐための知識
・水泳とフェムケアの新しい常識
・開発の裏話やユーザーの声
などをお伝えしていきます。
どうぞ、これからのUnderyを見守ってください。
そして、もしこの記事が誰かの背中を少しでも押せたなら、それが私にとって最高の喜びです。