なぜ速いスイマーは水面を滑るように泳げるのか?科学で解き明かす『浮く』技術の秘密
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「どうして速い選手って、あんなに水の上を滑るみたいに進めるの?」
テレビで水泳の試合を見たり、プールですごく上手な人の泳ぎを見たりして、そう思ったことはありませんか? まるで水と一体になっているみたいに、スイスイ進んでいきますよね。
それに比べて、「私は一生懸命手足を動かしているのに、どうして前に進まないんだろう…」って、ちょっぴり悔しい気持ちになることもあるかもしれません。
実は、速く泳ぐための秘密は、手や足を力いっぱい動かすことだけではないんです。もっと大切な「浮くチカラ」に答えが隠されているんですよ。
この記事を読めば、どうして「浮くこと」がそんなに大切なのかが、きっとわかるはず。水泳が少し苦手なあなたも、もっと速くなりたいあなたも、きっと「なるほど!」って思えるヒントが見つかりますよ。さあ、一緒に「浮く」ことの秘密を探しに行きましょう!

■速さのヒミツは「きれいな姿勢」にありました!
水泳が速い選手は、みんな泳いでいるときの「姿勢」がとってもきれいなんです。専門的な言葉では「ボディポジションが高い」って言うのだけれど、これは頭から足の先までが一直線になって、体が水面のすぐ下で水平になっている状態のことなんですよ。
では、どうしてこの姿勢だと速く泳げるのでしょうか?
理由はシンプルで、「水の抵抗(専門用語でいうと形状抵抗)」が少なくなるからなんです。
少し想像してみてくださいね。もし泳いでいるときに足が下がってしまうと、体は「く」の字に曲がってしまいますよね。この姿勢で進もうとすると、お腹や足がブレーキのようになってしまって、水がすごく邪魔をしてくるんです。これでは、いくら頑張って手足を動かしても、そのパワーが水の抵抗に負けてしまって、うまく前に進めません。
でも、速い選手のように体がまっすぐ浮いていると、水の抵抗がぐっと少なくなります。だから、自分の出したパワーを無駄なく「前に進む力」に変えられるというわけなんです。
つまり、速く泳ぐための第一歩は、手や足の動かし方を覚える前に、いかに水の邪魔が少ない「浮いた姿勢」を作れるかにかかっているんですね。

■そもそも、どうして人の体は浮くの?
「でも、どうして人の体って水に浮くの?」
その疑問を解決するカギは、理科の授業でも習う「アルキメデスの原理」にあります。
名前は少し難しそうに聞こえるけれど、言っていることはとてもカンタンですよ。
アルキメデスの原理: 水の中に入ったものは、その体が押しのけた水の重さと同じ力で、上向きに押される。
お風呂に入ったときを思い出してみてください。湯船に入ると、お湯が「ザバーッ」とあふれますよね。あのとき、あなたの体は「あふれたお湯の重さ」と同じ力で、下から上にグッと押し上げられているんです。この上向きの力が「浮力」なんですよ。
つまり、私たちは水に入るだけで、水から「浮き上がらせるパワー」を自動的にもらっているということなんです。

■あなたの体にも「浮く部分」と「沈む部分」があるんですよ
「なるほど、浮く力があるのはわかった。でも、すぐに浮く人と、沈みやすい人がいるのはどうして?」
その理由は、私たちの体をパーツごとに見ていくとわかります。そのカギは「比重(ひじゅう)」というものにあるんです。
比重というのは、水の重さを「1」としたときに、それより重いか軽いかを表す数字のことです。
・比重が1より大きい → 水より重いから「沈む」
・比重が1より小さい → 水より軽いから「浮く」
では、体のパーツごとの比重を見てみましょう!
| パーツ | 比重 | 結果 |
| 骨 | 2.01 | 沈む |
| 筋肉 | 1.06 | 沈む |
| 脂肪 | 0.94 | 浮く |
| 髪・爪 | 1.25 | 沈む |
| 脳 | 1.04 | 沈む |
この表を見ると驚きませんか? なんと、私たちの体の中で、何もしなくても浮いてくれるのは「脂肪」だけなんです。体を支える骨や、動かすための筋肉は、実は水より重いので、何もしなければ沈んでしまうんですね。
一般的に、筋肉質な人が浮きにくくて、脂肪が多めの人が浮きやすいのは、この「比重」が関係しているんですよ。

■人間が浮ける本当のワケ、それは「呼吸」なんです!
「え、じゃあ筋肉ムキムキの人は、絶対に浮けないってこと?」
安心して! 実は、私たち人間には、この状況を解決するための、最強の「浮き輪」が体に付いているんですよ。
それが「肺」です。
私たちは息を吸うことで、肺の中に空気を取り込みますよね。この空気が、まるで体に内蔵された浮き輪のように、すごい効果を発揮してくれるんです。
たとえば、息を「スーッ」と大きく吸い込むと、肺にはたくさんの空気が入ります。平均的な男性の肺活量は3500cc。この場合は、私たちは約3.5kgも体を浮かせる力を手に入れることができます。これは、1.5リットルのペットボトル2本分以上の浮く力なんですよ!
体のほとんどのパーツが「沈む」性質なのに、私たちが水にプカプカ浮けるのは、この肺に取り込んだ空気のおかげなんですね。逆に、息を全部「フーッ」と吐いてしまうと、ほとんどの人はゆっくり沈んでいきます。プールでやる「だるま浮き」で、息を吐くと沈むのは、これが理由だったんです。

■【やってみましょう!】もっと上手に浮くための3つのヒント
「浮く」ための理屈はわかりましたか? ここからは、それをどうやって泳ぎに活かすか、具体的なヒントを3つ紹介しますね。
ヒント①:息を止めないで!「吸う」ことを意識しましょう
一番大切なのが「呼吸」です。さっきもお話ししたように、肺の空気があなたを浮かせてくれる一番の味方ですよ。息継ぎで空気を吸ったら、すぐに全部吐いてしまうのではなくて、肺に空気をキープすることを意識してみましょう。
もちろん、苦しいのを我慢する必要はありませんよ。「息を吸うと体が浮く。その力を使って楽に進む」という感覚をつかむことが大切なんです。練習の最初に、大の字で空を見る「背浮き」や、うつ伏せでスーッと進む「けのび」で、呼吸を意識してみるのがおすすめです。
ヒント②:力を抜けば、体は自然と浮いてきますよ
「浮かなきゃ!」って思うと、逆に体にギューッと力が入ってしまいますよね。でも、筋肉は水より重いので、力が入ってカチカチになると、もっと沈みやすくなるという悪循環に…。
とくに足が沈んでしまう人は、バランスを取ろうとして首や肩に力が入っていることが多いんです。まずは、「水に体をあずけてしまおう」って感じで、リラックスしてみてくださいね。
力を抜いてフワッと浮く感覚を体が覚えれば、泳ぎがとっても楽になりますよ。
ヒント③:【おうちの方へ】お子さんの才能、見つけてみませんか?
もし、あなたのお子さんがスイミングを習っているなら、ぜひプールの真上から泳いでいる姿を見てあげてください。
注目ポイントは「背中」と「おしり」です。
もし、泳いでいるときに背中やおしりの一部がいつも水面から見えていたら…。それは、生まれつき「浮く才能」がある証拠かもしれません。
これは本当に素晴らしいことなんです! ぜひ、「浮くのが上手ね!」とたくさん褒めてあげてください。その一言が、お子さんの自信をグーンと伸ばしてくれるはずですよ。

■まとめ:『進む』ことと同じくらい、『浮く』ことを考えてみましょう!
今日は、速く泳ぐための秘密、「浮く技術」について見てきました。
速い選手は、水の邪魔が少ない「まっすぐな姿勢」で泳いでいる。
人の体は、実は「脂肪」以外は沈むけれど、「肺の空気」のおかげで浮くことができる。
上手に浮くには、「呼吸」と「力を抜くこと」がとっても重要!
水泳というと、「どうやって水をかくか」「どうやってキックするか」という『進む』ことばかり考えてしまいがちです。でも、本当に速い選手は、それと同じくらい『どうすれば楽に浮き続けられるか』を大切にしているんですよ。
今日からあなたも、練習のときに少しだけ「浮く」ことを意識してみませんか?
力を抜いて、水と仲良くなることから始めてみましょう。きっと、今までよりもスイスイ進める、新しい感覚が見つかるはずですよ。